●野鳥や動物に餌をやることがなぜよくないのでしょう?
1.人間の食べ物は生き物の健康を害します
パンやスナック菓子など自然界に存在しない食べ物は塩分や脂分が多い上にカロリーも高いという問題があります。肥満したカモがうまく飛べずに電線に引っかかったり、車に跳ねられたり、動きが鈍くて野良猫に襲われ食べられるなどの事故が現実に起こっています。
2.他の動物に襲われたり、交通事故に遭っています
餌をもらうことで人に慣れてしまった生き物は警戒心が弱くなり、無防備になりがちです。人に慣れて陸に上がったカモが野良猫やオオタカに襲われる事例が現実に起きています。
また、カイツブリの幼鳥が人が与えるパンに依存して自分で餌を取れる努力をせずにいつまでも親離れできず、後から産まれた雛鳥を競合相手にしてしまい、死に追いやる痛ましい事件も起きています。
3.池の水を汚しています
餌を池に投入することは『生ゴミを池に投棄する』のと同じことです。餌やりは不法投棄、立派な環境汚染です(飲食業関係者が残飯=産業廃棄物の処理費用を負担せず、餌やりの名目で大量に不法投棄している悪質な違法行為のケースもあります)。餌をやる人には全部カモと鯉が食べてるから池は汚れていないとおっしゃる方もいらっしゃいます。しかし、それは物事を表面的にしか見ていない意見です。よく考えてみて下さい。食べた餌はどこに行くのでしょうか? そう、食べたものは排出されますね? そういうことです。
夕方、あまりにも多くの人が餌をやるのですっかり満腹になった水鳥たちや鯉が餌を食べなくなり、池の表面に油分が浮いているおぞましい光景を見ることがありました(餌やり自粛キャンペーン以降、多くの方のご理解とご協力によって餌やりは激減し、最近はこのような光景は見ません)。素人目にも餌が池を汚していることが明らかな状況です。そんな汚れた状況でもさらに餌を投入する人がいたので、以前は憤りを通り越して呆れてしまうひどい状況でした。鯉もカモもお腹いっぱいの満腹状態になり、池にプカプカと浮かぶパンやスナック菓子を、いつの間に学習したのかカラスやハトが降下して見事に水面キャッチする光景まで見られましたが、決して笑えません。
また水草やヨシなどの少ない環境は本来水鳥も集まらないはずですが、餌やりによって人為的に水鳥が集められてしまうと、そのような水質浄化能力が低い環境は水鳥の糞尿で汚染されてしまいます。有機物過剰になった池は富栄養化し、生態系のバランスが崩れてプランクトンが異常発生します。汚染され富栄養化して臭くなった井の頭池、人間が池に投げた餌という名の生ゴミ、それにつられて無理やり集められた水鳥が、大量に与えられて食べた餌を排泄。この悪循環によって池は汚れきって生態系の崩れた状態に陥ります。
4.自然の私物化です
餌をやって生き物を自分に招き寄せる行為は、公共の場での生き物の私物化ではないでしょうか。餌をやることによって、橋の反対側で静かに観察していた人の周囲から水鳥たちが餌をやる人の方へ移動してしまったら、観察していた人はどう思うでしょう。他者から生き物の自然な姿を観察する権利を奪っていることにもなるのではないでしょうか。自然界の生き物は特定の個人のものではありません。餌をやることは自分が家に持ち帰るために植物を盗掘するのと同じ『私物化』ではないでしょうか。
野生動物はペットではありません
カモもカイツブリも、カラスやハトだって、誰かのペットではありません。
よく冬場は餌がないから餌をやって保護しているのだと詭弁を言う人がいますが、そういう言い分の人ほど自然環境で何が餌になっているかを知らなかったりします。カモや水鳥たちは人間が餌をやらなくても立派に生きてゆけます。本当に食べ物が足りなければ、食べ物がある場所に移動して彼らはたくましく生き延びます。
大切なのは良好な環境を取り戻すこと
かつて井の頭公園の池の水は澄んでいて、人々は泳いでいました。澄んだ池には水草が豊富で多くの在来魚や水生昆虫が棲息し、水鳥たちのいわばヘルシーな食べ物が豊富でした。21世紀になり、公園の池の現状は悲惨なものでした。濁りきった池は1メートル下さえ見えないほどに汚れていましたし、しばしば不快な異臭を放っていました。池には無責任な人々が放ったブラックバスやブルーギル、ミシシッピアカミミガメ(ミドリガメ)が溢れ、在来種を圧迫して著しく減少させたり、鳥類の雛を食べたり、生態系をかく乱していました。
取り組まなければならないのは餌をやることではなく、公園の環境を改善・保全して自然の食べ物を増やすことです。雨水浸透ますの設置を促進して湧水を増やし、外来種を駆除し、生態系を豊かにして野生生物が棲みやすくすることです。澄み切った水を取り戻し、人々が豊かな心で池を眺めることです。管理者と市民が協働し、井の頭池の水質を改善し、豊かな生態系を復活させる……かつて考えた理想が、2007年3月から実施した「餌やり自粛キャンペーン」によって実現へ向けて加速し、2014年から3回実施した「かいぼり」が決定打となって現実のものとなりました。
観察して楽しもう
野生動物たちはペットではありません。近くで鑑賞するために手なづけたり触れようとする発想自体まったく間違っています。私たちは日々公園の生き物を観察し、大いに楽しんでいます。毎日観察していても発見の連続です。自然観察というものは実に奥が深いものです。自然や生き物は観察し、撮影することで十二分に楽しむことができるのです。奥深い自然観察の世界を共に探求してみませんか。